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Art-SITE vol.2 菊谷達史個展

『スノーモンスター・ウィズ・ワーキングドッグ』

2022 年 12 月 17 日(土)〜12 月 30 日(木)

金沢市民芸術村アート工房 PIT5

展覧会ウェブサイト

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菊谷達史は、北海道の稚内市出身であり、金沢美術工芸大学大学院の油画専攻を修了した後、現在まで石川県を拠点として活動する作家である。主に絵画を制作する傍ら、2019年にはアニメーションの制作を開始し、現在は絵画とアニメーションという二つの形式を通して表現活動を行なっている。

菊谷の作品は筆致や色彩といった絵画の構造的な側面から、モチーフの選択に至るまで、様々なものを参照している。例えをあげればキリがないが、絵画の構造的な部分では、西洋近現代絵画の文脈で言えばファン・ゴッホやダニエル・リヒター、日本近代洋画でいえば村山槐太や、安井曾太郎、それ以外にもゲームや漫画など様々なものが挙げられる。モチーフの選択の部分では、生活の日用品からバイト先の仕事現場、旅行先の一場面、といった日常的なものから、それをさらに敷衍した近代日本洋画家が好んで描く食べ物のワンショットモチーフやダークツーリズム、仕事とレジャー、そしてゲームやアニメに至るまで少しでもピンときたものはなんでも取り入れられる(もちろん彼なりの精査があるにしても)。

菊谷のこうした過剰摂取は、ただ打算的に取り入れられているのではなく、彼自身の生きる上での様々なものとの向き合い方を擦り合わせようと真面目に検討され取り入れられたものである。しかし、この取り入れ方自体が、彼の持つ独特のゆるさを経由しているため、かなり表層的なものに留まり、コラージュのように一つの画面で共存する。菊谷達史の作品の難しさはここにかかっている。彼の作品や作家としての思想は、様々なものに対して感受性を持ち、検討されるものの、それは決して肩肘を張るようなものではないものとして実現される。ゆえに、その思想に触れようと思った途端それは四方に散らばり、かといってそれはただ散漫かといえばそうではなく、闇鍋のような異様さでもってそれらはまとめられている。言い換えれば、過剰摂取の行為そのものが、自身の思想の実現とその影響関係についての必死の検討を経ながら、真面目なものと露悪的なものの狭間で彼の体系を複雑に形どっているかのようである。

また、菊谷のアニメーション制作はこうしたゆるさを媒介とする真面目なものと露悪的なものの態度を様々なモチーフの過剰摂取を通して、段階的に、そしてプロセスとして開示することを可能とした。本展覧会ではこうしたアニメーションと絵画を同時に検討しながら、彼の出身である北海道、および東北地方と石川県にまつわる歴史や自身の経験のつなぎ合わせを試みている。スキーや救援行動におけるスノーモンスターはそれ自身が動くことはなく、能動的に避ける必要がある。また、ワーキングドッグは調査や救援行動においてそれ自身が動くことで、使役者は受動的に身を委ねる。こうした二つの軸によって展示される作品が、彼の持つ性質と相まって会場でどのように機能するのか、こうしたやりとりを経て、この展覧会は実現されている。

金沢市民芸術村アート工房 宮崎竜成

作品① 《木は動かない動くのはあなた》2022|キャンバス、油絵具|1303×1303㎜

一言メモ:

1年ほど前。金沢市民芸術村での個展の話が来た時は、ちょうどこのスキーヤー絵画シリーズを始めたタイミングだった。この絵はその後、「犬」というサブテーマが展覧会に追加されたタイミングで描いたS60号。当初は作品②《ストレイ・スレッド・ドッグ・スクワッド》の為の習作的な、試運転的な位置付けだったのに、終わってみれば「こっちの方が良いじゃん」となってしまった絵画あるある。展示する気はあまり無かったけど一応会場に持ってきてみたら入り口壁面にしっくり来てしまったのでウェルカム・ペインティングに抜擢。正直言ってまだこのシリーズは要領を得ていないが今後このシリーズだけの絵画展もしたい。タイトルは山岳エリア(バックカントリー)スキーヤー向けの啓蒙フライヤーより引用。

ストレイ・スレッド・ドッグ・スクワッド(PIT5).jpg

作品②《ストレイ・スレッド・ドッグ・スクワッド》2022 |キャンバス、アクリル絵具、水性アルキド樹脂絵具 、一覧表|1940×3240㎜

一言メモ:

 

南極に置いてけぼりにされた15匹のカラフト犬を擬人化させた集合画。作品として扱う以上は最新本は読もうと思い購入した、『その犬の名を誰も知らない』(2020年 嘉悦洋著)が想像を絶する面白さで、それにあてられて描いたファンアートでもある。この本は、第1次南極観測隊隊員で唯一ご存命の北村泰一氏へのヒアリングを通して、最若手だったタロ(画面中央赤上着)とジロ(画面中央青上着)を生かした「第3の犬」は誰だったのかを突き止めるという内容。おすすめです。試験的に水溶性絵具で描いてみた大型タブロー。だが暗部は油彩の魅力に遠く及ばなかった。

冬の兵(スキーロス)(PIT5).jpg

作品③《冬の兵(スキーロス)》2022|199枚のOHPフィルム(A4)、インク、油性マジック、ポスターカラー|サイズ可変

一言メモ:

120年前に青森でおきた『八甲田雪中行軍遭難事件』の犠牲者と同じ枚数のセル画(風ドローイング)インスタレーション作品。1枚に1匹。199種類の別々の犬種が描かれており、撮影すると走る犬のアニメーションになる。当初「199匹ワンちゃんを描く」という事だけ決めており、手法は会場壁面へのウォールドローイングにするか、それとも紙に描くドローイングアニメーションにするかの2択で迷っていたが、最終的には折衷的にセル画プランを採用。右上から左下に向かっての連番になっており、入り口から風が吹き込むとたまにヒラヒラ揺れる。

リフト乗り場(PIT5).jpg

作品④《リフト乗り場 》 2021|キャンバス、油絵具|530×455㎜

一言メモ:

 

出品作の中で唯一この展覧会を念頭に置いていない作品。2021年制作。技術ではなく運で描けているところが大きい、再現不可能な典型的なラッキーストライク系絵画。熊谷守一がアツかった時期で、書のように油彩画を描いたら・・という意図があった気もしなくも無い。2階スペースへと続く階段下に何か欲しかったのと、作品⑤《雪中索道随想録》 にも接続できるかなと考え参戦させた。

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作品⑤《雪中索道随想録》 2022|ビデオ|11 分

一言メモ:

 

過去制作した映像には台詞や脚本めいた物が一切なく、「自分は映像でお話(映画)を作りたいわけでは無いのだ」と開き直っていたが、じゃあノンナラティブでアブストラクトなアニメーションを志向してるかと問われれば、それもNOなので、ここいらで一度「テキスト」ありの映像に一度チャレンジしてみようと思い制作した作品。気持ち的には展覧会ステイトメントのような昨日が果たせたら良いなという考えもあった。

前作『うつくしき動物たち』や『ノートブックアニメーテッド1』などは、膨大な労力(手数)で高カロリーにするというアプローチで、ドローイングをアニメーションに使用する際の癖になってしまいそうだったので、絵(画)と文字をどれだけ削いで映像作品を作れるかという冒険でもあった。なお、ここ数年Adobe Premiereを使用した「映像を割り、字幕をつける」という労働をいくつか経験していて、そこで得た技術を作品制作に利用してみたいというモチベーションもあった。

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